第三者の視点で刺激的に推理

◉『信濃毎日新聞』2017年12月17日付

 (…)中心となっているのは、80年代前半に科学的知見が蓄積されていく中で、世界と日本で関係者が感染リスクをどう受け止め、どう対処したのかについての科学者らしい詳細な検討である。著者は資料を読み解きながら、製薬会社や学会、患者団体も含めた業界内の人間関係を浮かび上がらせ、関係者の意図や思惑に踏み込んでいく。そして旧厚生省とエイズ研究班の関係者の無策を厳しく批判する。
 著者の推理は小説のように刺激的である。それは、有能な探偵や刑事が限られた証拠から関係者の心理を読み取りストーリーを紡ぎだすのと似ている。科学の最前線とそこに集うプレーヤーを熟知するからこそできる解釈といえるだろう。その前提となっているのは、医師や学者、行政担当者も手柄や名誉を求め、自己保身を図る普通の人々であるという人間観と、患者や国民を守る立場にある者は、科学的知見が確立されていなくても限られたデータを基に被害防止のために努力すべきだという倫理観である。(…)


【大島寿美子・北星学園大教授】