出版協会長/緑風出版代表 高須次郎

 声明にあるように、ポイントカードによる値引きは、再販制度を内部から崩壊させるものとして、これ以上看過することはできない。

 出版協加盟社のうち51社は、8月7日までに、Amazon.com Int'l Sales, Inc.に対し、学生を対象に10%もの高率のポイントサービスを実施しているAmazon Studentプログラムから自社商品を1カ月以内に除外するよう求める申入書を送付し、8月20日までに回答するよう求めた。同時に、除外しない場合は、再販契約書の規定に従い、取次店に対し、同社への出版物の出荷を停止するよう指示することもある旨の警告をした。除外を求めた51社の点数は4万1740点、アマゾンデータベース約70万点の6パーセントにのぼる。

 出版協は、会員各社の要望に基づき、昨年10月以来、3度にわたってその中止を求めてきたが、同社が依然として同サービスを実施し続けているためである。

 私が代表を務める緑風出版は、8月21日、回答期限の8月20日付けアマゾンジャパン株式会社メディア事業部門長 渡部一文名義で「回答書」を受け取った。これによると「Amazon.co.jpサイト(以下「弊サイト」は、弊社の関連会社であるAmazon.com Int'l Sales, Inc.が運営管理しているものであり、弊社はAmazon.com Int'l Sales, Inc.の問い合わせ窓口として本書を送付しております)とした上で、「弊サイトといたしましては、再販売価格維持契約の当事者ではない貴社に対して何ら申し上げる立場にないことから、大変申し訳ございませんが貴社の申し入れに対する回答は控えさせて頂きたく存じます」として、回答を拒否してきた。

 小社は、この手紙に①代表者印や社印、自筆サインもないこと、②Amazon.com Int'l Sales, Inc.に対し回答を求めたのであって、アマゾンジャパン株式会社に回答を求めたのではないこと、を指摘した上で、

「小社は、日販および大阪屋と再販契約を締結し、前記取次2社は、Amazon.com Int'l Sales, Inc.と再販契約を締結していると取次店から回答を得ております。取次店は『出版業者と再販売価格維持契約書第三条に基づき』、小売業者と再販売価格維持契約を締結しているので、取次店を通じ再販契約を結んでいる小売店であるAmazon.com Int'l Sales, Inc.は、定価販売を遵守するなど、再販売価格維持行為の主体である出版社の指示に契約上従う義務があり、これに関連する質問等について回答するのは当然です。」

と述べ、9月5日までに改めて正式回答をする旨の手紙を8月27日付けでAmazon.com Int'l Sales, Inc.宛に送付した。

 同時に、取次店に対しても8月20日期限の回答が遅れているため、改めて期限を区切って督促している。

 この一連のやり取りをみても、グローバル企業としてのアマゾンは複雑な会社である。取次店は、米国にあるAmazon.com Int'l Sales, Inc.と取引契約ならびに再販売価格価格維持契約をして、Amazon.com Int'l Sales, Inc.の業務委託をしているアマゾンジャパン株式会社に納品・請求し代金の支払いを受けているという。読者は、アマゾンジャパン株式会社から本を送付してもらい、領収書はAmazon.com Int'l Sales, Inc.名義となる。アマゾン・ドット・コムが国税庁から追徴課税されても税金を払わずにすんだことは有名な話だが、税金に詳しい人の話だと次のようなこともあり得るという。

 つまりアマゾンジャパン株式会社は本をAmazon.com Int'l Sales, Inc.に輸出し、Amazon.com Int'l Sales, Inc.は日本の読者に輸出した形をとっているらしいのだ。そうするとアマゾンジャパン株式会社は、トヨタなど日本の輸出企業と同様に仕入れにともなう消費税を消費税の輸出還付金として還付を受けている可能性がある。またAmazon.com Int'l Sales, Inc.から日本の読者に売る場合は、税込み価格であるから、Amazon.com Int'l Sales, Inc.は米国で納税するという名目で消費税を日本に払わなくてすむ。これだけで9パーセント近い。こうしたことが原資になって値引きをされたら、紀伊國屋書店の高井昌史社長ではないが、「一般書店は競争にならない」ということになる。

 一般書店の営業利益が0.2%~0.3%しかない現在、ポイント合戦に耐えられない書店は倒産・廃業するしかない。長期の出版不況で書店数は減り続け、ピークの2000年12月の2万3776店から倒産廃業が続き約4割減少し、2013年5月には1万4241店となってしまった。いくつもの有名なナショナルチェーンが経営危機になり、印刷資本や取次店の傘下になるほどである。

 再販売価格維持契約は、出版社が小売店に対し定価で販売してもらうために、取次店を通じて、出版社→取次店、取次店→小売店、という形で結んでいる。アマゾンジャパン株式会社がいうように、形式的には出版社は再販売価格維持契約の当事者ではないかもしれないが、この理屈は通るまい。取次店はアマゾンと再販契約を結んで「定価を厳守し、割り引きに類する行為をしない」(再販売価格維持契約書第3条)と約定しているからである。

 また、書店が再販契約に違反したときは、出版社の「指示」ないし「諒承」のもとに「乙(取次店)は丙(小売店)に対して警告し、違約金の請求、期限付の取引停止の措置をとることができる。」(同第5条)ことになっている。

 しかも、公取委は、再販契約違反であるかどうかは「出版社が判断し、その意を受け取次会社も対処できるということです」(野口文雄公取委取引企画課長見解「再販制度の適切な利用に当たっての留意点」、出版ニュース2005年1月下旬号より)との見解を示している。

 また、野口課長は「出版社が再販契約に基づいて言う場合であっても、自分の商品についてだけ止めてくれと言えるわけで、他社の商品についてまでは言えない。ポイントカードを実施しているところに対して、ポイントカードシステムを止めろとは言えないのであって、自社の商品は対象外とするようにと言えるということです。表示上から言うと、消費者向けにその旨を表示して貰うことになります」(同上)と述べている。つまり自社商品のポイントサービスからの除外要請については、出版社に許される行為であり、「消費者向けにその旨を表示して貰うことになります」というのは、Amazon.co.jpサイトにその旨の表示を求めることできるということである。野口課長は、現在公取委の審査局長で、独禁法の番人とも言える。出版協の除外申し入れ社は自らの意志で、この見解にそって順法・合法のやり方をとっている。

 アマゾンには、書店の売上のトップ企業として、再販契約のルール、業界ルールを守って、その社会的責任をはたしてもらいたい。そして同時に、アマゾンのポイントサービス=値引きだけが問題なのではない。再販制度を壊してしまうような値引きが問題なのである。

 出版業界は再販制度を守るために弾力運用をしなければと言ってきた、それが今日の事態を招いたともいえる。もう法定再販制の存続は確定したのである。再販制度を内部から崩してしまうような行為には毅然とした対応が必要だ。かつて書店がポイントサービスによる値引き反対に動いた時も、出版社はこれを見殺しにしてしまった。出版社は再販売価格維持の主体である。出版社が今度は動かなければならない。もし今回も手をこまぬくとすれば、本の再販制度は確実に内部崩壊しよう。そしてその責任は誰でもない。出版社自身にあるのだ。

 9月早々にはアマゾンの回答が出てこよう。回答次第では、出荷停止に踏み切ることになる。

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