一般社団法人 日本出版者協議会
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 今はどんなところでも商品を買うとポイントカードがついてきます。貯まればあとで使えてちょっと得をした気分になります。もう少しで500円分となると、思わずそこで買い物をしたりしてしまいます。すごいのになると同じ店ですぐ使えるところもあります。
 でも私たちは本のポイントカードには反対なのです。読者・消費者のそんなささやかな楽しみに反対なんて、ちょっとおかしいんじゃないの? と言われそうですが、本については反対なのです。それはなぜか? 私たちの言い分も聞いてください。

Q 本や雑誌は、どうして定価販売なの? ずるくない?

 同じものなら東京でも札幌でも沖縄でも同じ定価。他の商品は、安売りありでいろいろな価格がついているのにおかしく思われるのもわかります。
 実は本や雑誌などは出版社が書店などに対し定価販売をさせること、つまり値引き販売をさせないことを独占禁止法(独禁法)の例外として許されているからです。再販売価格維持制度(再販制度)と呼ばれるこの制度は、メーカーが小売価格を決定・拘束できるため、縦のカルテルと呼ばれ、本来は消費者の利益にならないことが多いので、自由経済では原則違法とされています。しかし、文化的な配慮などから著作物についてだけ独禁法で例外的に認められています。公正取引委員会が認めている著作物は、他に新聞、レコード盤・音楽用テープ・音楽用CDがあります。出版社は取次店(問屋)を通じて書店と再販売価格維持契約を結んで、定価販売を行っています。

Q どういう理由で許されているの?

 書籍・雑誌・新聞などの著作物は一国の学問芸術、文化の普及ないしその水準の維持に欠かせないもので、多種多様な著作物が全国的に広範に普及される必要があり、それらは均等に享受されるべきであり、離島・山間・僻地などを理由に価格差があったりしてはならないと考えられています。再販制度は、著作物の普及という文化的、公共的、教育的役割を実現していくのに適しているとされ、独禁法制定以前からこのような商慣習があったこともあり、例外的に許されているわけです。この再販制度により国民は、全国どこでも同じ値段で知識や文化を享受することが可能となり、民主社会の公正・公平な発展に役立つと考えられています。

Q 再販制度で本の値段を出版社が勝手に決められることで、本の値段が高くなっているってことはないの?

 そう思うのが普通ですね。ところが本は物価の優等生といわれるほど他の商品に比べとても安いのです。2012年現在新刊書籍の平均定価は2278円で1996年の2609円に比べて13%減、消費税を含めると16%減です(出版年鑑2013年版「新刊書籍30年間対比部門別平均定価」)。同じ年で公共料金をみますと、郵便はがきが41円から50円(+21%)、新幹線(東京?大阪)が13480円から14050円(+4.2%)、都バスが160円から200円(+25%)、朝日新聞購読料1カ月が2800円から3925円(+40%)に値上がりしています。本はまさにデフレ価格なのです。
 本は、文学作品など人間の知的創造物を本という媒体に載せて伝達するわけで、価格は著者の印税や印刷製本などの生産費に一定のマージンを加えて算出されています。小説や論文そのものに値付けをしているわけではありません。読者に人気の文学作品などをみれば、人気があるほど定価が安くなる傾向があります。

Q ポイントカードはせいぜい3%から5%くらいなのだから、読者サービスでいいんじゃない?

 1998年ころ東京の神田駅近くに進出した全国チェーン書店が当時もっとも値引き率の高い5%のポイントカードを始めました。近くの小さな書店さんたちも対抗上、やむなくポイントカードを始めました。どうなったかといいますと、小さな書店さんは続けられなくなってお店を閉めてしまいました。その後、大きな書店も撤退してしまい、地域の読者にとって不便な結果となりました。もともと書店のマージンはとても少なく、とくに小さな書店さんほど不利なのです。

Q ポイントカードに出版業界が反対しているのはわかったけど、公正取引委員会はどう考えているの?

 公正取引委員会は、ポイントカードは値引きにあたると判断しています。しかしポイントサービスによる値引きが再販契約違反するかどうかは、出版社が判断し、契約当事者間で解決しなさいとしています(大脇雅子参議院議員の質問主意書に対する2001年(平成13年)7月31日付小泉首相の答弁書)。しかし、お楽しみ程度といえる1%程度のポイントサービスについてまで、再販契約に違反する値引きだといって出版社が止めさせようとするのは、消費者利益に反するので問題だとしています。
 長期の出版不況のなかで一般書店は、0.2~0.3%程度の営業利益しかなく(「2012年書店経営指標」日販調べ)、街の小さな書店になるほど営業利益で赤字(売上5000万円未満だと-2%の赤字=トーハン調べ)です。1%のポイントサービスすらできないのが現状です。ポイントサービスをしている全国チェーンの書店でもほとんどは1%です。

Q アマゾンのポイントサービスをなぜ問題にするの?

 アマゾンの「Amazon Studentプログラム」は、対象を学生に限定にしていますが、そのポイントは10%という高率です。これがすべての読者に拡大すると書店への影響は決定的になります。すでに書店間のポイントサービス合戦を誘発しつつあります。出版不況で書店数も減り続け、ピークの2000年12月の2万3776店から倒産廃業が続き約4割減少し2013年5月には1万4241店となっています。いくつもの有名全国チェーンが経営危機になり、印刷資本や取次店の傘下になるくらいです。
 アマゾンは、一般書店、ネット書店のなかでトップの売上高をあげていることは確実で、その影響は大きなものがあり、10%ポイントカードは、日本の書店に壊滅的影響を与えることは必至です。
 アマゾンには、トップ企業としての社会的責任として、再販契約のルール、業界ルールを守ってもらいたいと思います。

Q 自由競争なのだから、強いところが勝つのが当たり前だし、読者としては安く手に入るに越したことはないんですけど。

 業界紙によると最近、紀伊國屋書店の社長さんや大手出版社などが加盟する日本書籍出版協会が、「アマゾンは消費税も法人税も払っていない。一般書店は両方支払っている。これでは不公平で、競争に成らない」と問題にしています。競争はあくまで公平で公正なルールのなかで行われるべきではないでしょうか?

Q ポイントカードが広まることは読者にとってはいいことばかりだと思います。何か損になるのですか?

 ポイントカードが広まると、書店は値引きの経済的負担を出版社に求めるようになることは必至です。それらの負担分が価格に転嫁され本の値段が上がってしまいます。これでは、読者=消費者の利益にならないと思います。
 しかもポイントカードによる値引きが蔓延すると、定価販売という再販制度が事実上不要ということになってしまいます。定価販売がなくなれば、当然、値引きされることを前提に表示価格(カバープライス)は高く設定されることになると考えるのが自然です。
 価格の問題にとどまらず、売れない専門書などは市場原理で値段を叩かれるなどの事態が起こり、ますます出版がしにくくなり、出版文化の要ともいえる出版物の多様性が失われて、知識や文化の伝播機能が低下してしまう恐れがあります。現在でも、新古書店やネット書店でのユーズド本の流通、図書館貸し出しの増大、不正コピーの横行など複合的な要因による出版不況の長期化で、出版社はピークの 1997 年4612社から2013年には3676社へと、2割が消えてなくなりました。ここに再販制度の崩壊が加われば出版社数はさらに減少するでしょう。これでは、わが国の出版文化を支えてきた本の多様性を守ることは困難になります。
 目先のポイントによる値引きをとるか、全国同一の安定した値段と出版物の多様性をとるか、本当はどちらが得なのでしょうか? 私たちはもちろん、後者こそが本来の「読者利益」であると思うのです。

 私たち一般社団法人日本出版者協議会は、再販制度を守るためにポイントカードに反対しています。また自分たちの発行する本はポイントカードの対象から外すよう求めています。ぜひご理解ください。

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