「原発のウソ」のどこがウソなのか

◉『サンデー毎日』2012年3月3日 3・4 号より

 原発は火力や水力など、他のどの発電方法よりも安いのだと言われてきた。しかも安全でクリーンでCO₂を出さないので地球環境にも優しいのだと。
 何もかも大ウソ以外の何物でもなかったと、今なら誰もが知っている。だが、すでに四半世紀以上も前に、原発ローコスト論のまやかしを暴き、白日の下に晒した経済学者がいた。本書の著者・熊本一規だ。
 いわゆる原子力ムラのプロパガンダでかき消されていた真実が甦った。彼によれば1980年代の資源エネルギー庁は、設備利用率を実態よる高く設定して、原発のコストを都合よくでっち上げていた。その後も算定方法や計算式に当てはめる耐用年数、割引率、燃料上昇率等々を恣意的に改める小細工の繰り返し。
 使用済み燃料の再処理や処分、それら諸施設の廃止に至る「バックエンド」の費用がコストに算入され始めたのは、ようやく1999年度になってからだった。曖昧すぎる数字の根拠が2004年度の試算で多少は示されたと思ったら、今度は高レベル廃棄物の最終処分場のコストをたったの80年分しか見積もらなかったり。半永久的に管理し続けなければならないのではなかったのか。
 他にも、反原発の運動圏で常識化した「電力料金を決定している総括原価主義は、原発を造れば造るほど儲かる仕組み」だという俗説の誤りが指摘されたりと、目からウロコの読みどころが満載だ。原発コストの問題は、実質国有化や発送電分離など、これから噴き出してくる東京電力の経営形態見直しのテーマとも、当然のように結びつく。早めに理論武装しておこう。


【斎藤貴男】