脱原発の経済学

¥ 2,200 (税別)

書籍内容

熊本一規[著]
四六判上製/232頁/2200円+税
ISBN978-4-8461-1118-2 C0036

福島原発事故によって放射能が垂れ流され続け、人びとが放射線被害のモルモットになっているような事態は、人類史上初めてのことである。脱原発すべきか否か。脱原発を選ぶとしたら、それをいかに進めるのがよいか。この問いは、今やすべての人びとにとって差し迫った問題として問われている。
本書は、原発の電気がいかに高く、いかに電力が余っているか、いかに地域社会を破壊してきたかを明らかにし、脱原発が必要かつ可能であることを経済学的観点から提言する。(2011.11)

■内容構成
はじめに

第1章 電力自由化と発送電分離は必要か
1 地域独占の根拠とその崩壊
⑴ 日本の電気事業体制
⑵ 地域独占の根拠は「規模の経済」
⑶ 分散型電源が「規模の経済」を崩す
⑷ 電力自由化の制度改革
⑸ PPSの進展と電気料金の低下
2 総括原価・レートベース方式は正すべきか
⑴ 電気料金決定の三原則
⑵ 総括原価とレートベース方式による事業報酬
⑶ 「原発をつくればつくるほど儲かるしくみ」は本当か
⑷ 広告費や研究費を電気料金に含めてよいのか
⑸ 総括原価方式に代わる方式はあるか
3 発送電分離は必要か
⑴ 電力会社による負荷追随運転と託送料金
⑵ PPSに課されるインバランス料金
⑶ 自由化の進展を阻む託送料金とインバランス料金
⑷ 欧州における電力自由化と発送電分離
⑸ 託送料金・インバランス料金は改善されたか
⑸-1「在り方」及び「詳細設計」による改善策
⑸-2 託送料金・インバランス料金の推移
⑸-3 枠組み自体を問わない弥縫策
⑹ 発送電分離は必要であり可能である

第2章 「原発の電気が一番安い」は本当か
1 発電費用のうちわけ
⑴ 減価償却費とは
⑵ 固定費と可変費
⑶ 各種電源の発電費用の特質
2 電源のベストミックス論
⑴ 三種類の負荷
⑵ 各負荷に適した電源
3 電源別発電原価のモデル試算のカラクリ
⑴ 発電原価関数とグラフ
⑵ 一九八四年モデル試算のカラクリ
⑶ 各電源の発電原価関数とベストミックス論
⑷ 算定方式の変更で「原発の電気が一番安い」を維持
⑸ バックエンド費用を割引率で小さくする
⑹ 二○○四年モデル試算のカラクリ
結論

第3章 原発は地域社会を破壊する
1 福島原発は地域を潤したか
⑴ 恒久的振興を訴えた福島県
⑵ 原発の立地効果は麻薬と同じ
2 原発と漁民・住民
⑴ 電力会社に物をいえない
⑵ 原発と漁民
⑶ 原発と住民

第4章 脱原発社会を如何に創るか
1 脱原発は必要かつ可能である
⑴ 「安全な原発」はあり得ない
⑵ 原発には差別が不可避
⑶ 原発がなくても電気は足りる
⑷ 原発は電気しか生まない
⑸ 原発では再生可能エネルギーを補えない
⑹ 原発保有国の状況が物語るもの
⑺ 温暖化二酸化炭素原因説は疑わしい
⑺ 脱原発は火力で可能
2 再生可能エネルギーの何を如何に進めるか
⑴ 脱原発と再生可能エネルギー普及は別物
⑵ 固定価格買取制度は必要か
⑶ 太陽光と風力は有望か
⑷ 風土に合った再生可能エネルギーを
⑸ バイオエネルギーの重要性
⑹ 多様な電力利用を
⑺ 再生可能エネルギーの多様な利用を
⑺ 日本の低炭素社会づくりは間違っている
3 再生可能エネルギーを誰が担うか
⑴ 福島原発敷地は堤一族のものだった
⑵ 広島・長崎、水俣、福島を貫くもの
⑶ デンマークから学ぶもの
⑷ 需要側が供給側の痛みを自覚する仕組みを
⑸ 再生可能エネルギーを地域が握る 付 論 水車が語る農村盛衰史


あとがき
索引

納品について

版種類

印刷製本版, 電子書籍版

書評

「原発のウソ」のどこがウソなのか

原発は火力や水力など、他のどの発電方法よりも安いのだと言われてきた。しかも安全でクリーンでCO₂を出さないので地球環境にも優しいのだと。 何もかも大ウソ以外の何物でもなかったと、今なら誰もが知っている。だが、すでに四半世紀以上も前に、原発ローコスト論のまやかしを暴き、白日の下に晒した経済学者がいた。本書の著者・熊本一規だ。 いわゆる原子力ムラのプロパガンダでかき消されていた真実が甦った。彼によれば1980年代の資源エネルギー庁は、設備利用率を実態よる高く設定して、原発のコストを都合よくでっち上げていた。その後も算定方法や計算式に当てはめる耐用年数、割引率、燃料上昇率等々を恣意的に改める小細工の繰り返し。 使用済み燃料の再処理や処分、それら諸施設の廃止に至る「バックエンド」の費用がコストに算入され始めたのは、ようやく1999年度になってからだった。曖昧すぎる数字の根拠が2004年度の試算で多少は示されたと思ったら、今度は高レベル廃棄物の最終処分場のコストをたったの80年分しか見積もらなかったり。半永久的に管理し続けなければならないのではなかったのか。 他にも、反原発の運動圏で常識化した「電力料金を決定している総括原価主義は、原発を造れば造るほど儲かる仕組み」だという俗説の誤りが指摘されたりと、目からウロコの読みどころが満載だ。原発コストの問題は、実質国有化や発送電分離など、これから噴き出してくる東京電力の経営形態見直しのテーマとも、当然のように結びつく。早めに理論武装しておこう。

【斎藤貴男】 ◉『サンデー毎日』2012年3月3日 3・4 号より。

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