事故から十年、原発時代を掘り下げたドキュメント

◉『図書新聞』2021年3月20日付より

 福島原発震災から十年の歳月が流れた。東京電力福島第一原発の原子炉が相次いでメルトダウンを起こし、建屋が次々と水素爆発を起こしたときの恐怖感は、未だまざまざと残っている。(…)本書はシビア・アクシデントを起こし、収束作業の目処も立たない今日なお続いている原発時代を掘り下げ、調査報道によって幾多の問題点を浮き彫りにした新聞記者のドキュメントである。
 (…) 本書で注目すべきは、著者が東電福島第一原発事故について百件を超える関連資料の情報公開請求をして明らかにした事実である。とりわけ、事故被災者による集団訴訟で大きな争点になった、電力会社と国の津波対策におけるネグレクトの共犯関係には驚かされる。それによれば、事故から十年以上前の一九九七年の時点で、東電をはじめ電力会社が原発を襲う可能性のある津波の推計を詳細に行っていた。だが、その評価をめぐって防災計画や安全性の議論が新たに起きることを回避した。平安時代の貞観津波をめぐる評価では、国と東電とが原発への影響を回避する共犯関係にあった。さらに事故後は、津波は想定外であり、関係者はもういない等と回答するばかりで何ら変わりない。
 国と電力会社は、事故への備えのハードルを下げ、事故や被害を過小評価することに汲々とし、再稼働を進める。膨れ上がる事故対応の費用まで国民に負担させ続ける一方で、原発推進派がいかに原発ゼロの声を恐れているかも本書から明らかになる。「原発が存続できるという理由や理屈を見いだしえない」と述べる著者の述懐は、広く理解されるはずだ。事故からこの十年、原発時代が終焉していない責任は、当の私たちにある。


【桜井裕三・ジャーナリスト】