原発時代の終焉─東京電力福島第一原発事故10年の帰結

¥ 1,800 (税別)

書籍内容

小森敦司[著]
四六判上製/196頁/1800円+税
ISBN978-4-8461-2104-4 C0036

東京電力福島第一原発事故から10年。この間、目の当たりにしたのは、いわゆる「原子力村」の強大な姿だ。事故があっても、大手電力や政財界は原発を維持しようと様々な画策をしてきた。原発を支える構造は変わらず、安倍政権は民主党政権の「原発ゼロ」政策を反古にして原発推進路線に舵を切った。
しかし本書を読めば、東電の原発事故が福島の人びとにいかに精神的、肉体的に犠牲を強いるばかりか、原発推進がすでに経済的に破綻し、国民全体の犠牲につながるものであるかが分かる。再生可能エネルギーも大きく成長し、原発依存の時代は終焉を迎えようとしている。
そうした実態を裏付ける、小泉純一郎元首相をはじめ関係者のインタビューも収録した。(2021.2)

■内容構成
まえがき
第1章 原発の時代と原子力村
1 「村」は伏魔殿
2 取り込まれたメディア
3 「現代の幕藩体制だ」
4 東電と経産が激突
5 責任問わずモラル崩壊
6 元首相「神 の御加護」
7 熱かった「国民的議論」
8 「資本主義曲げて」再建
9 旧経営陣と決別したが
10 世界で自然エネ革命
神話の陰に─ベールに覆われた原子力部門・
第2章 問われる事故の責任
1 「何の責任も取ってねえべ」
2 「ふるさとの喪失」を償って
3 「子を危険に」親たちの苦悩
4 遠い和解「理屈抜きの対応に」
5 大津波、警告したはずなのに
6 「経営」を「安全」に優先させたのか?
7 「収支が悪化する」と調書に。判決は......
8 集団訴訟  東電の責任を認める流れ
第3章 「原発ゼロ」を求めて
1 「終わりじゃない、これからだ」
2 「電力業界にメスを」遺志継ぐ
3 全国行脚 炎は絶やさない
4 「原発ゼロ基本法」を作りたい
5 新しい社会への「鍵」になる
6 仲間はもう増えないのか
7 「方向転換に五年もいらない」
8 「国民的議論」をもう一度
9 民意、推進側を悩ま す
小泉純一郎元首相は何を語ったか
第4章 開示された資料と残る謎
1 巨大津波は「想定外」だったのか? 数々の検討文書
2 透ける防災当局と電力業界の「なれ合い」関係
3 「被曝線量の長期目標」はどのように実質緩和されたか
第5章 原発はどこへ 学者や専門家の証言
1 原発の本当のコストは? 経産省の「安い」試算に異議(大島堅一・龍谷大学教授)
2 汚染土は公共事業に、汚染水は海洋放出……で大丈夫?(「FoEジャパン」 の満田夏花理事)
3 無限の安全対策は無理? 「桁違い」原発リスクどうみる (プラント技術者・筒井哲郎氏)
4 「この国は変わってない、ダメだ」前東海村長が抱く不安(村上達也さん)
5 「原発推進のキーマン失った」関電金品問題(橘川武郎・国際大学教授)
第6章 電力が変わる 研究者やNGOの見方
1 自然エネルギー革命 米国で進行中 火力・原子力は劣勢(自然エネルギー財団・ 石田雅也氏)
2 止まらぬ石炭火力発電 「事業者はリスクに気付いて」(「気候ネットワーク」の桃井貴子・東京事務所長)
3 再エネでカギ握る送電線 欧州で「脱・資源争奪戦」(京都大学大学院経済学研究科特任教授・内藤克彦氏)
4 電 力自由化は誰のため? 大手に甘く再エネに厳しい日本(高橋洋・都留文科大学教授)
5 もはや世界は「気候危機」 一〇〇年に一度の表現やめて(WWFジャパンの末吉 竹二郎会長)
あとがきにかえて

納品について

版種類

印刷製本版, 電子書籍版

書評

事故から十年、原発時代を掘り下げたドキュメント

福島原発震災から十年の歳月が流れた。東京電力福島第一原発の原子炉が相次いでメルトダウンを起こし、建屋が次々と水素爆発を起こしたときの恐怖感は、未だまざまざと残っている。(…)本書はシビア・アクシデントを起こし、収束作業の目処も立たない今日なお続いている原発時代を掘り下げ、調査報道によって幾多の問題点を浮き彫りにした新聞記者のドキュメントである。
(…) 本書で注目すべきは、著者が東電福島第一原発事故について百件を超える関連資料の情報公開請求をして明らかにした事実である。とりわけ、事故被災者による集団訴訟で大きな争点になった、電力会社と国の津波対策におけるネグレクトの共犯関係には驚かされる。それによれば、事故から十年以上前の一九九七年の時点で、東電をはじめ電力会社が原発を襲う可能性のある津波の推計を詳細に行っていた。だが、その評価をめぐって防災計画や安全性の議論が新たに起きることを回避した。平安時代の貞観津波をめぐる評価では、国と東電とが原発への影響を回避する共犯関係にあった。さらに事故後は、津波は想定外であり、関係者はもういない等と回答するばかりで何ら変わりない。
国と電力会社は、事故への備えのハードルを下げ、事故や被害を過小評価することに汲々とし、再稼働を進める。膨れ上がる事故対応の費用まで国民に負担させ続ける一方で、原発推進派がいかに原発ゼロの声を恐れているかも本書から明らかになる。「原発が存続できるという理由や理屈を見いだしえない」と述べる著者の述懐は、広く理解されるはずだ。事故からこの十年、原発時代が終焉していない責任は、当の私たちにある。

【桜井裕三・ジャーナリスト】
◉『図書新聞』2021年3月20日付

レビュー

レビューはまだありません。

“原発時代の終焉─東京電力福島第一原発事故10年の帰結” の口コミを投稿します