プルトニウム─原子力の夢の燃料が悪夢に

¥ 2,600 (税別)

書籍内容

フランク・フォンヒッペル/田窪雅文/カン・ジョンミン[著]
A5判上製/204頁/2600円+税
ISBN978-4-8461-2116-7 C0036

国際的に有名な核問題専門家のフランク・フォンヒッペル、カン・ジョンミン(姜政敏)、田窪雅文の3人は、本書をまとめることにより、重要な貢献を果たした。本書は、今日私たちが「プルトニウム時代」と呼んでいるものを歴史的かつ包括的に取り扱っている。著者らは、プルトニウム経済の危険性に関する彼らの考え方を明確かつ簡潔に示し、民生用燃料サイクルにおけるプルトニウムの分離と使用の禁止を提唱する。核拡散及び核セキュリティー上のリスクと経済的正当性の欠如に鑑みてのことである。

         モハメッド・エルバラダイ
国際原子力機関(IAEA)事務局長(1997-2009年)
ノーベル平和賞受賞(2005年)

1960年代にあった「プルトニウム経済」という夢は、豊富な低コストのエネルギーをもたらすことにはならず、代わりに世界にもたらされたのは核拡散・放射能の恐怖と核テロの実際的な可能性だ。フォンヒッペル、カン、田窪は、力強く、明晰にこれらの危険を減らすにはどうすればいいかを説明する。国内の原子力研究開発機関が未だにプルトニウムの夢を追い続けている国々の政府は耳を傾けるべきだ。

         エドワード・マーキー
核軍縮・核不拡散の第一人者
米国下院議員(1976~2013年)及び米国上院議員(2013年~)

 著者らは、プルトニウムに関連したリスクに関する透徹した分析と、いかなる目的のためであれ使用済み燃料からプルトニウムを分離する活動を中止すべきという極めて説得力のある議論を一カ所にまとめることによって非常に貴重な貢献を果たしている。本書は核燃料についての考え方の発展の歴史をわかりやすく説明し、世界の原子力の現実を解き明かしている。そして、これが最も重要と言ってもいいかもしれないが、原子炉から生じる使用済み燃料を何十年、何世紀にも亘って扱うための明確な代案について論じている。

         ロバート・ガルーチ
米国側対北朝鮮交渉責任者(1994年)

■内容構成
目次
序文 モハメッド・エルバラダイ
謝辞
第1章 概観
1.1 プルトニウム増殖炉の夢
1.2 増殖炉の不都合な点
1.3 当初予想よりもずっと多く発見されたウラン、そしてずっと低かった需要の伸び
1.4 発電用原子炉の使用済み燃料の再処理
1.5 インドの核実験の警鐘
1.6 軽水炉用のプルトニウム燃料
1.7 放射性廃棄物管理のための再処理?
1.8 悪夢
Ⅰ部 夢
第2章 夢 プルトニウムを動力源とする未来
2.1 二重目的炉
2.2 プルトニウムの生成
2.3 軽水炉とウラン濃縮
2.4 プルトニウム増殖炉
Ⅱ部 悪夢
第3章 民生用プルトニウム分離と核拡散
3.1 核拡散
3.2 「スマイリング・ブッダ(微笑む仏陀)」の警鐘
3.3 カーター政権による米国増殖炉プログラムの見直し
3.4 電力消費の伸びの鈍化と原子力の停滞
3.5 消えゆく増殖炉の夢
3.6 失敗に終わった増殖炉の夢が残したもの

第4章 増殖炉不在のまま続くプルトニウム分離
4.1 フランス:軽水炉でのプルトニウム・リサイクル
4.2 英国:再処理プログラムついに閉幕へ
4.3 日本──再処理プログラムを持つ唯一の非核兵器保有国
4.4 ロシア:増殖炉開発の継続
4.5 「原子炉級」プルトニウムの兵器利用の可能性
4.6 民生用再処理の頑固な継続

第5章 実際よりずっと深刻な福島事故の可能性 稠密貯蔵状態の使用済み燃料プールでの火災
5.1 使用済み燃料プールにおける火災の懸念
5.2 セシウム137による地表の汚染
5.3 米国における規制の検討
5.4 韓国における使用済み燃料プール火災の影響予測
Ⅲ部 進むべき方向
第6章 早期の乾式キャスク貯蔵 稠密貯蔵プールと再処理の両方に対するより安全な代替案
6.1 乾式貯蔵
6.2 コスト面での利点
6.3 安全面の利点
6.4 集中貯蔵
6.5 乾式貯蔵の耐久性
6.6 輸送
6.7 結論

第7章 使用済み燃料の深地下直接処分
7.1 再処理と核拡散
7.2 使用済み燃料処分場が環境に及ぼす危険性にわずかしか寄与しないプルトニウム
7.3 再処理は放射性廃棄物処分場の大きさを意味のある程度に縮小できるか?
7.4 再処理の危険性
7.5 結論

第8章 プルトニウム分離禁止論
8.1 核分裂性物質カットオフ条約(FMCT)
8.2 民生用プルトニウム保有量制限の試み
8.3 高濃縮ウランの使用を制限しようとする同時並行的試み
8.4 プルトニウム分離の禁止

訳者あとがき

納品について

版種類

印刷製本版, 電子書籍版

著者紹介

[著者略歴]
フランク・フォンヒッペル(Frank von Hippel)

プリンストン大学「科学・国際安全保障プログラム」上級研究物理学者・名誉教授。同プログラムに加え、「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」及び『科学と国際安全保障』誌を共同創設。1993~94年、ホワイトハウス「科学・技術政策局」国家安全保障担当次官。

田窪雅文(たくぼ まさふみ)
東京に本拠を置く研究者。現在は、プリンストン大学「科学・安全保障プログラム」所属。1970年代から東京で研究者・活動家として原子力・核兵器問題にかかわる。ウェブサイト「核情報」主宰。

カン・ジョンミン(姜政敏)
原子力エンジニア。米国のプリンストン大学、スタンフォード大学、ジョン・ホプキンズ大学、自然資源防護協議会(NRDC)や、韓国の韓国科学技術院(KAIST)で研究職を得て活動。2018年のほとんどの期間、韓国原子力安全委員会(NSSC)委員長を務めた。

書評

プルトニウムをどうするか

エネルギー問題を根本的に解決する「夢の燃料」となるはずだったプルトニウムは、核拡散と核テロをもたらす悪夢へと変わった。その過程を、日・米・韓の専門家が各国の事例に触れながらまとめている。
そもそもは、プルトニウムを用いた長崎用原爆を開発したマンハッタン計画の科学者たちが抱いた夢であった。その実現が米国で放棄された後も、日本は原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理政策を進め、核兵器6000発分近くに達するプルトニウムを保有するに至った。そして、原型炉と位置付けられた「もんじゅ」が失敗した後も、六ヶ所再処理工場の運転を断念しない。未来にわたる重荷となっているこの再処理政策を考える上で本書は必読だ。著者たちはすべての国による再処理の放棄を提言し、使用済み燃料を空冷式の乾式貯蔵で最終処分まで保管するという代案を説明する。科学的な記述も平易で読みやすい。

◉『世界』2022年4月号より

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