使命感がひしひしと伝わってくる

◉『朝日新聞』05年3月13日朝刊より

 わが国最大の食品公害事件であるカネミ油症事件は、発生から37年もたつのに、今も後遺症に苦しむ人々が多いなど、解決していない。本書は事件の全貌を丹念に描いていく。
 事件が深刻化した理由はなにより、加害企業が食用油にポリ塩化ビフェニール(PCB)を混入させた工事ミスを長く隠したことと、誤った原因説から始まった裁判で見当外れの審理が続いたことだ。いち早く副産物のダーク油を飼料としたニワトリが多数死んでいたのに、行政が深く究明しなかった点も挙げられる。さらにはPCBの熱処理産物で原因物質となったダイオキシンの解明も遅れた。
 しかも被害者は、第二審で勝訴しながら最高裁での和解によって仮払金の返済が求められていて、三重四重の不幸な立場にある。行政、司法の不手際が生んだこの悲劇に、政治が救済の手をさしのべるべきだというのが著者の主張だ。この本を書いた使命感がひしひしと伝わってくる。