検証・カネミ油症事件

¥ 2,500 (税別)

書籍内容

川名英之[著]
四六判並製/352頁/2500円+税
ISBN4-8461-0422-2 C0036

カネミ油症事件は、1968年に北九州一帯でダイオキシン類に汚染された米ぬか油を食べた約1万4000人が健康被害を訴えた一大食品公害事件である。現在も多くの被害者が全身疾患に苛まれており、またダイオキシンの生殖毒性のため黒い赤ちゃんが産まれるなど、親から子へと引き継がれ、被害が拡大している。しかも油症として認定されたのはわずか1900人に過ぎず、解決にはほど遠い。  そのうえ、国を相手取った損害賠償請求訴訟の控訴審で勝訴して被害者が手にした仮払金が、裁判そのものを取り下げた結果、弁護団の不手際で国から返還請求されるなど、被害者は経済的にも精神的にも追いつめられている。  本書は、カネミ油症事件を綿密に調査、検証して、国が被害者を積極的に救済することを強く訴える。(2005.1)

■目次
はしがき

第一章 衝撃的な工事ミスの真相
放置され続けたカネミ油症被害者
独特の脱臭工程と巧みな宣伝
PCBの毒性を知らない現場
油症の大発生から提訴まで
事件から十二年後の真相告白
元脱臭係長が「沈黙の証言」
溶接棒の先がPCB管に接触
大量の補給PCBが油に混入
毒物汚染を隠して出荷・販売
隠された工事ミスと油汚染
数々の改ざんとすり替え
日誌類の改ざん・焼却、偽証の疑いのある事柄
難航した原因と汚染物質の究明
原因究明を妨げたピンホール説
事件から十九年、原因物質を究明

第二章 油症の大発生と認定行政
油症の大発生と被害の実態
今も続く油症患者の苦しみ
問題多い油症研究班の認定業務
油症の診断基準表
支援運動と診断基準見直し
「カネミ油症被害者支援センター」の設立

第三章 前兆見逃した農林・厚生省
汚染飼料で死んだニワトリ四九万羽
立入り検査で油の汚染を見逃す
カネミ倉庫と農林省との「良好な関係」
カネミ社長批判強めた加藤八千代
毒物飼料で死んだ大量のニワトリの処理
ダーク油事件めぐる数々の謎
家畜試験場が事実と違う鑑定報告
汚染ダーク油の提供を拒んだ農林省
飼料汚染からPCB使用禁止まで
油症事件の三年後、PCB環境汚染が判明

第四章 油症患者掘り起こし運動
認定を求めて必死の闘い
回収した油を海に投棄したカネミ倉庫
未認定患者を掘り起こす闘い
杜撰な田中首相の答弁書に反論
「PCBが発がん物質かどうか不明」と油症研究班
認定を阻まれる未認定者の苦悩

第五章 流れを変えた高裁・最高裁
福岡カネミ民事訴訟の経過
全国統一民事訴訟の経過
刑事裁判は森本元工場長が有罪判決
知られざる国の和解働きかけ
高裁判決から最高裁の和解勧告まで
国の責任否定の二陣二審判決
崩れた二審勝訴・和解の目論み

第六章 過酷な仮払金返還要求
原告の訴え取り下げと各省の対応
マスコミ・世論の批判を恐れた農水省
九年後の返還調停と弁護士の失敗
「仮払金は原告の権利」からの大転換
八〇回もの農水省・弁護団交渉明るみに
仮払金の苦しみと解決への願い

第七章 被害者をどう救済するか
未認定者の救済と仮払金の解決策
求められる政治的解決

出典注記
参考文献
カネミ油症事件関連年表
あとがき

納品について

版種類

印刷製本版, 電子書籍版

書評

使命感がひしひしと伝わってくる

わが国最大の食品公害事件であるカネミ油症事件は、発生から37年もたつのに、今も後遺症に苦しむ人々が多いなど、解決していない。本書は事件の全貌を丹念に描いていく。 事件が深刻化した理由はなにより、加害企業が食用油にポリ塩化ビフェニール(PCB)を混入させた工事ミスを長く隠したことと、誤った原因説から始まった裁判で見当外れの審理が続いたことだ。いち早く副産物のダーク油を飼料としたニワトリが多数死んでいたのに、行政が深く究明しなかった点も挙げられる。さらにはPCBの熱処理産物で原因物質となったダイオキシンの解明も遅れた。 しかも被害者は、第二審で勝訴しながら最高裁での和解によって仮払金の返済が求められていて、三重四重の不幸な立場にある。行政、司法の不手際が生んだこの悲劇に、政治が救済の手をさしのべるべきだというのが著者の主張だ。この本を書いた使命感がひしひしと伝わってくる。

◉『朝日新聞』05年3月13日朝刊より。

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