お役所の病理は、どこの国でも似たり寄ったり
◉週刊朝日週刊図書館 2001年11月 2 日号斎藤美奈子の誤読日記より抜粋
……さらに感染源をたどって行き着いたのがこの本、リチャード・W・レーシー著、渕脇耕一訳『狂牛病─イギリスにおける歴史』である。
著者は狂牛病の危険性をいち早く指摘したイギリスの臨床微生物学者。かの国の狂牛病騒動の中心的な人物である。その彼が本書で暴いているのは、イギリス政府と農漁業食糧省の、いわばお役所病なのだ。希望的観測にもとづいて、すぐ「安全宣言」を出す。お役所の病理は、どこの国でも似たり寄ったりであるらしい。イギリスで初めて狂牛病が発見された1986年から累積発症例が14万件近くに及んだ94年8月まで、10年弱のドタバタ劇をみていくと、日本の将来が予告されているようでもある。
あと気になるのはこんな箇所。〈排除された臓物の範囲の決め方が、理解出来ない。牛の脳、脊髄、脾臓、胸腺、扁桃、そして腸に共通のものは何だろうか? お分かりかな? どれも商品としては、ほとんど価値がない。危険かもしれないものを何か排除しなければならないので、これらの器官を排除した。商業的損失がもっとも少ないものだけを、彼らは選び出した。そんなことがあり得るだろうか? あり得ると、私は考えている。
日本の狂牛病対策もEUを手本に進められていたはずだ。その本家本元がまさか……。最初「人には感染しない」といっていたイギリスで96年 に10人、2001年 9 月 の 時 点 で は100人強の患者が見つかっている。肉骨粉といっしょに、こんな発想まで輸入しているのではあるまいな。
- 狂牛病─イギリスにおける歴史¥ 2,200 (税別)