書籍内容
李制勳[著]、市村繁和[訳]
四六判上製/428頁/3600円+税
ISBN978-4-8461-2405-2 C0031
韓国・北朝鮮の国際連合同時加盟(1990年)、そして両国の「特殊関係」を規定した南北基本合意書の採択(1991年)により本格化した、朝鮮半島の「脱冷戦」。しかし、それはソ連・中国・東欧との修交に成功した韓国と、米国・日本との不和のままに取り残された北朝鮮の不均衡、つまり「非対称な脱冷戦」であった。このことが、危機克服を核武装に頼る北朝鮮の安保政策を生み、さらに北朝鮮の体制自体を憂慮の対象とする周辺諸国の安保政策を生む、ジレンマを育てて来た。30年を超える葛藤は、今あらためて新次元の緊張関係に達しつつある。「平和の波」はもはや潰えたのか?
本書は、韓国大手紙『ハンギョレ』のベテラン記者であり、また南北関係研究者でもある著者が、南北関係をめぐる諸事件を振り返った「実録」である。相互不信と敵対のなかで、それでも繰り返された安定・平和の試みと、偶然と故意が入り混じったその破産を丹念に追い、東北アジアの「脱冷戦」状況を活写しながら、絶望の果ての平和を構想する。(2024.5)
■内容構成
【推薦の言葉】記者のまなざしと学者の透察で掬いあげた南北関係三〇年史(林東源)
【推薦の言葉】朝鮮半島問題を理解するための最高の道しるべ(文正仁)
日本の読者の皆さんへ 絶望を踏み締めて希望をふたたび語る日へ
はじめに 停戦七〇年、六番目の「平和の波」を待ちながら
Ⅰ 非対称な脱冷戦と一民族二国家の始まり(一九九〇年〜一九九七年)
韓ソ修交と消えた核の傘
南北国連同時・分離加入
ひとつとふたつのあいだの悲喜劇 南北基本合意書①
金日成は万歳を叫び、金英徹は不満をこぼした理由は? 南北基本合意書②
南北交流協力法、分断史の分水嶺
[深く読む]一九八九年、平壌の文益煥と黄皙暎、そして林秀卿
一九九二年大統領選挙と「訓令捏造事件」
北朝鮮の核問題、米国が南北関係に埋め込んだトロイの木馬
「朝鮮半島に米軍がいなくては」金正日の破格の提案を蹴飛ばした米国
日朝関係の正常化、米国はなぜ二度も押しとどめたのか?
韓中修交、東北アジアの根本を再編する
北朝鮮の投げた九〇日の時限「核爆弾」、核兵器不拡散条約NPT脱退
瀬戸際で踊るダンス、恐喝と協定のアンサンブル
[深く読む]プエブロ号事件、米朝関係のおかしな公式の起源
瀬戸際で開かれた共存の扉、米朝ジュネーブ基本合意
金日成の死、近親憎悪の爆発
[深く読む]金泳三政権の対北朝鮮政策、「耳学問外交」の悪夢
Ⅱ 平和の狭すぎる回廊にて(一九九八年〜二〇〇七年)
金大中、「苦難の行軍」をする北に手を差し伸べる
金剛山観光、ある失郷民の故郷への思い
「金正日がどんな人物なのか調べていらっしゃい」
敵対から握手を経て抱擁へ 史上初の南北首脳会談①
金大中−金正日の合唱「統一は過程だ」 史上初の南北首脳会談②
開城工業団地、南北協力のもっとも高く、広い高原
朝鮮人民軍序列一位、ワシントンに行く
歴史に仮定はないというが…金正日−クリントン米朝首脳会談の座礁
「北朝鮮は悪の枢軸」ブッシュとネオコンの挑発
米国はなぜ第二次核危機を作ったか?
六者会談、米国の回避と仲裁者・中国の出現
・共同声明、韓中の協力外交と東北アジア脱冷戦の青写真
ネオコンのBDA制裁、核実験を呼び起こす
[深く読む]米国の対北朝鮮政策、民主党と共和党は
どれほど異なるのだろうか?
西海平和協力特別地帯、盧武鉉−金正日が育んだ平和繁栄の夢
放棄できない夢、朝鮮半島縦断鉄道・道路
[深く読む]米国はなぜ南北連結事業に非協調的なのだろうか?
Ⅲ 一〇年の冬と二年の春(二〇〇八〜二〇二〇年)
李明博政権の対北朝鮮強硬政策と北朝鮮崩壊論
金剛山観光一〇年と立ち止まる未来
金正日の死、関係回復の機会を一蹴した韓国
西海・北方限界線(NLL)、朝鮮半島の火薬庫
開城工業団地のソンミンとスッキたち
誰が統一を作る工場を殺害したか? 開城工業団地の閉鎖
金正恩の併進路線、核実験と制裁の悪循環
金正恩の「平壌時間」と我が国家第一主義
戦争の危機に咲いた平和の花、平昌オリンピック
[深く読む]南北和解・協力の呼び水、TEAM KOREA
文在寅・金正恩の叫び「もう戦争はない」 二〇一八年南北首脳会談①
・米朝共同宣言、金正恩・トランプ+文在寅の脱冷戦設計図
トランプの心変わり、ハノイの呪い
[深く読む]北朝鮮にも強硬派−穏健派の摩擦があるのだろうか?
希望は絶望よりも力強い 二〇一八年南北首脳会談②
おわりに 韓国・朝鮮・米国・中国の四者会談で「平和体制」の扉を開こう
日本語版・補論 南北の類例なき断絶状況のなかに垣間見える暗中模索
原注
[凡例]本書は、原書の含意が正確に伝わるよう、基本的に可能な限り原著の表現が訳文に再現されるよう努力した。ただし、日本語として訳出するうえでの語彙的な制約から、本書が一般書であることも鑑みながら、以下のような形を取っている。
◦韓日/中日/美日/露日などの表記は、日本語圏で常用される漢字熟語の慣習に合わせて、日韓/日中/日米/日露といった表現に置き換えている。
◦朝鮮民主主義人民共和国の略称について、原著では「北韓」「北」表記が多用されている。訳文として、その含意・脈略を反映させる必要がありながらも、日本語版読者にはあまり馴染みのない語彙であることから、基本的にこれらを「北朝鮮」に置き換えている。
◦引用中の固有名詞・職位名等においては、原則的に原語の語彙表記に準じた。また文章表現の持つ言外のニュアンスに忠実な訳文となるよう努めた。
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