書籍内容
川名英之[著]
四六判上製/392頁/2600円+税
ISBN978-4-8461-0717-8 C0036
「ゴミ焼却炉をどれほどいじってもダイオキシン汚染対策にはならない」「ダイオキシンは騒ぐほどの毒性はない」「重度の奇形がダイオキシンによって発生するなんてことを信じている科学者は今や世界には1人もいない」「カネミ油症で死者は出ていない」「セベソでは1人も死ななかった」などという、非科学的で根拠のない言説が蔓延している。そして、これらの言説が、カネミ油症などのダイオキシン被害者を傷つけ、ゴミ問題に取り組む市民や研究者を中傷し、マスコミや行政に悪影響を与えている。
本書は、『ダイオキシン 神話の終焉』に代表される言説の基本的な誤りを指摘、ダイオキシン対策の重要性を改めて説くとともに、国のゴミ焼却政策の抜本改革を求める。(2008.1)
■目次
はしがき
第一章 「焼却炉対策は無意味」は間違い
焼却炉対策でダイオキシンが減った
「焼却炉をどれほどいじってもダイオキシン汚染対策にはならない」は本当か
鵜呑みにできない環境省の「環境基準ほぼ達成」
ダイオキシン摂取量と母乳濃度も改善
ダイオキシン摂取量は二十年で三分の一に
十年間に母乳濃度が半減したドイツ
ドイツ、スウェーデンも焼却炉対策で削減
ドイツの廃棄物・ダイオキシン削減対策
焼却灰の扱いも日独両国では大きく違う
スウェーデンの焼却炉対策の成果
「ダイオキシン法」の効果と問題点
「ダイオキシン法」制定までの政策の経過
「ダイオキシン法」の内容と意義
「ダイオキシン法」が持つ問題点
「ダイオキシン法」制定の効果はOECDも高く評価
第二章 「汚染の主犯は農薬」は疑問
一九六〇~七〇年代に深刻だった農薬汚染
『神話の終焉』は中西氏の農薬主犯説に依拠
益永・中西グループの論文と益永氏の論文は一様ではない
「水底の農薬由来が汚染の主犯」と見る中西氏
除草剤PCPとCNP散布による魚介類汚染
農薬由来主犯説と焼却由来主犯説
ラッペ教授の指摘から始まった中西氏の研究
益永・中西グループと益永氏の論文に対する批判
ゴミ焼却由来のダイオキシン推定量が少なすぎる
過去に使用禁止された農薬が今なお汚染の主犯ではない
ラフな仮定の使用などで曖昧な点が多い
「焼却は人体汚染に無関係」の中西説を覆す論文が出現
第三章 「焼却も塩ビも問題なし」の嘘
運転停止後の能勢・焼却炉データ使用は論外
低レベル濃度だった稼動停止三年後の大気
ガン死した焼却炉労働者の遺体から高濃度のダイオキシン
ダイオキシン汚染の主因は塩ビの焼却
「塩ビ焼却でダイオキシンが発生」は常識
塩ビの規制に取り組む欧州諸国と都市
塩ビを含む廃プラの焼却が最大の問題
プラスチックゴミを焼却するのは「早トチリ」か
少量の塩ビ投入で多量のダイオキシン発生は実証済み
ベルギーの焼却炉周辺で異常に高いガン発生率
焼却炉周辺でガンや呼吸器疾患が多発
立ち遅れたベルギーの規制
福岡県志免町と兵庫県宍粟郡の焼却炉汚染
福岡県志免町の焼却炉のひどい汚染実態
「日本一の汚染」と言われた兵庫県宍粟郡の焼却炉
所沢周辺の簡易炉・野焼きによる環境汚染
建設廃材などの産廃簡易焼却が集中した埼玉県西部
炉焼却による大気汚染に苦しむ地域住民
土壌汚染濃度の測定から始まったダイオキシン問題
住民が焼却炉使用停止を求める公害調停を申請
フィリピンのゴミ焼却禁止とその影響
ダイオキシンとディーゼル微粒子汚染で多数の死者
市民運動が制定に大きく関わった大気浄化法
世論が生んだ焼却炉規制
フィリピンの脱焼却と東南アジア諸国の市民運動
焼却炉からは多種類の有害物質が発生する
ダイオキシンより有害な物質も多量発生
必要な国民の健康を守るという考え方
第四章 政府のダイオキシン対策と市民運動
行政当局に対策着手を求め続けた市民運動
対策に着手しないまま十二年が経過、「汚染大国」に
ダイオキシン問題の市民運動の草創期
欧州先進国と比べて大きく立ち遅れた日本の規制
厚生省の対策着手と市民運動による測定データ公表
市民運動が文部省を動かし、学校焼却炉廃止を実現
カネミ油症被害者支援センターの設立
一九九七年の新ガイドラインが焼却炉規制の出発点
「ダイオキシン法」は新ガイドライン目標の前倒し
「ダイオキシン・関西ネット」の諸活動
焼却炉の大型・ハイテク化でコストが増加
問題の多い広域処理と焼却炉の大型・ハイテク化
約二十年ごとに巨額の建設費が必要な焼却炉
焼却炉排出濃度の常時監視方式を義務付けよう
理解できない市民運動・専門家への攻撃
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議批判
市民運動をなぜ一方的に中傷・批判するのか
ダイオキシン専門家に感謝すべきなのに
母乳汚染の実態をあえて知らせた専門家
第五章 「ダイオキシンは安全」は嘘
ダイオキシンの毒性を改めて検証する
誤解を生む「ダイオキシンは何でもない物質」
ダイオキシン、ダイオキシン類とは
超微量で障害を引き起こすダイオキシン
ダイオキシンの慢性毒性こそが人体に危険
ダイオキシンのもたらす多種多様な障害
猛毒の証拠が枯葉剤による深刻な被害
枯葉剤による疾患は多種多様
ツーズー病院では今も毎日二人の奇形児が誕生
枯葉剤作戦とは、どんな作戦だったのか
ダイオキシンの催奇形性―林氏の間違い
「ダイオキシンで奇形発生はない」の嘘
奇形の発生は一九七〇年代前半の研究で判明
枯葉剤作戦をやめさせた科学者たちの調査研究
「ダイオキシン散布総量が少ない」と林氏は言うが・・・
林氏の言う「詐欺的な因果関係」は誤り
ベトナム人の枯葉剤と疾患の関連は認めない
枯葉剤の影響と見られる先天障害児支援問題
「枯葉剤被害胎児の異常は普通の四~五倍」
枯葉剤散布による森林破壊と土壌汚染の今
TDIを強化してきたWHOとEU
強化されたWHOの「耐容一日摂取量」
科学的検証抜きの批判に説得力はない
国民の二五~五〇%がTDI超過摂取なのに……
セベソの男女出生割合にもダイオキシンの影響
セベソの被害を「かるい皮膚炎程度」とした渡辺氏
「セベソでは一人も死ななかった」という林氏の嘘
乳児が摂取する多量のダイオキシン
優先順位がトップのダイオキシン対策
危険信号だった母乳のダイオキシン濃度
多数化学物質摂取の複合影響を考慮すべきだ
第六章 新聞が「ダイオキシンは安全」を増幅
『神話の終焉』に好意的だった諸新聞
新聞の科学欄に科学的でない記事
新聞の書評を利用した格好の政治的主張
藤森氏の書評に大喜びの塩ビ工業界
中西準子氏は書評で「ねつ造」というが……
『朝日』Be On Sunday・山形浩生氏のコラム
評価できる『毎日』小島記者の「記者の目」
『神話の終焉』類似本の相次ぐ出版
池田清彦氏『環境問題のウソ』の問題点
また新たなダイオキシン規制反対論
障害発生の原因は枯葉剤以外にあるのか
第七章 「ダイオキシンで死なない」の嘘
カネミ油症事件で死者が出ている
壮絶な死を遂げたカネミ油症患者
カネミ油症患者の低い死亡年齢が示すもの
「眼やに、発疹、爪の黒変程度」の嘘
林氏が被害実態を調べずに書いた間違い
林氏の「八五パーセントが因果関係否定」は誤り
集団中毒を疫学的検証なく認定制度で棄却
八十四歳、八回の大手術の認定患者もいる
記述の嘘に怒る油症被害者・支援者たち
油症被害者が林氏の間違った記述に強く抗議
日弁連が油症全被害者の人権救済を勧告
三十五年後も血液中に残るダイオキシン類
枯葉剤中のダイオキシンによる死者は相当に多い
第八章 討論会での抗議と研究者のモラル
実りのあった白熱の討議
「農薬説はあまりにラフな仮定。再考を」と宮田氏
会場との意見交換
虚構と偏見の多い問題の本
問われる研究者の規範・モラル
「ダイオキシン猛毒論者に財務省の非難」
「研究者に恫喝を加える卑劣な行為」と畑明朗氏
『ダイオキシン 神話の終焉』の著者たちのその後
専門家の『ダイオキシン 神話の終焉』批判
科学者に行動規範はないのか
渡辺氏の文献引用の仕方に批判がある
第九章 急ぐべきゴミ焼却政策の抜本改革
生ゴミのコンポスト化で焼却量を減らそう
コンポスト化を軌道に乗せたドイツ
英国でも軌道に乗った生ゴミのコンポスト化
生ゴミを全量コンポスト化しているデンマーク
『ダイオキシン 神話の終焉』の問題点
「死ななければ対策の必要なし」は間違い
公害・環境汚染の防止にカネを節約しすぎるな
池田首相の「水俣病の原因早計論」は清浦論文の影響か
ダイオキシン汚染の原因論争も科学的な検証が不可欠
世界の潮流になりつつある予防原則の考え方
残留性有機汚染物質の地球汚染と対策
二〇〇七年六月にスタートしたEU新化学物質政策
「ダイオキシン国際NGOフォーラム」の開催
四大ダイオキシン汚染事件の被害者・研究者が参加
枯葉剤被害者の検診活動と障害児たちの近況
米国が補償している枯葉剤曝露の特定疾患
セベソ健康被害とモカレッリ教授の注目すべき研究
「毒性のない環境」を国家目標に掲げるスウェーデン
台湾油症被害の研究と被害者の報告
聴衆の胸を打ったカネミ油症被害者の報告
ダイオキシンの削減に毒性研究に基づく環境基準
EUの食品ダイオキシン基準と日本の魚の汚染状況
「ダイオキシン類汚染 私たちの提言」の提案・討議
出典注記
あとがき
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