JRに未来はあるか

¥ 2,500 (税別)

書籍内容

上岡直見[著]
四六判上製/264頁/2500円+税
ISBN978-4-8461-1710-8 C0036

「経営者は無責任で、職員も働かないから赤字になった」といわれた国鉄は、分割民営化され、1987年4月、JRが発足した。あれから30年、JRは赤字を解消して安全で地域格差のない「利用者本位の鉄道」「利用者のニーズを反映する鉄道」に生まれ変わったのか?
本書は、鉄道交通問題研究の第一人者が、分割民営化後のJRの30年を総括、様々な角度から問題点を洗いだし、JRの未来に警鐘!(2017.6)

■目次
はじめに
第一章 国鉄からJRへ
「あなたの鉄道」になったのか
分割民営までの経緯
輸送力はどうなったか
大都市圏の交通
運賃はどうなったか
経営と財務
累積債務の原因
設備投資の不公平
長期債務はどうなったのか
JRの現況
JR九州はどうなるか
人員はどうなったか
第二章 サービスはよくなったか
一九六四年~オリンピック前夜
「駅」の軽視が国鉄崩壊の始まり
「全国画一からローカル優先のサービス」
「明るく親切な窓口に変身」
「楽しい旅行をつぎつぎと企画」
「会社間をまたがっても乗りかえもなく、不便になりません。運賃も高くなりません」
経営者の姿勢が見える「広報」
無頓着な情報提供
格差の増大
幹線系線区のサービスレベル
無人駅の荒廃
「広告ジャック」はサービスか
バリアフリー
第三章 安全性は向上したか
安全性の要素
安全の思想
JRに移行する前後の異常
事故の予兆
JRの事故件数の推移
安定性の阻害
運転士の勤務
JR西日本の「反省」は本物か
乗客は駅員の代わりか
人身事故に関して
それでも鉄道は安全
第四章 地方交通線はどうなったか
ローカル線ヘイトスピーチ
ローカル線廃止政策の経緯
東北地域の事例
中国地域の事例
バス転換は地域消滅への道
第五章 JR北海道をどうするか
JR北海道が一二三七㎞の路線を放棄
「赤字」とは何か
バス代替は可能か
東京ともつながっている「タマネギ列車」
JR北海道全線が運行不能も
第六章 JR貨物はどうなったか
「物流」の重要性
分割民営に際しての鉄道貨物の位置づけ
鉄道貨物の縮小経緯
社会的費用の具体的な試算
トラックドライバーの不足
第七章 リニア新幹線は「第二の国鉄」
JR東海はリニア事業で「第二の国鉄」へ
中間駅は無人駅
神奈川県に関する具体的な試算
年に地球を五四〇〇周の工事車両
リニア建設の真の目的
リニア中央新幹線と安全問題
「止める」技術の不安
リニアと原発は無関係
第八章 持続可能な交通をめざして
鉄道は格差是正のシステム
地域鉄道の存在価値の評価
上下分離の導入
スウェーデンの鉄道政策
ネットワークの維持体制
幹線交通体系
都市圏の鉄道について
鉄道の環境価値の見直し
ライドシェア(相乗り)は地域交通を救うか
自動運転は地域交通を救うか
論点のまとめ
おわりに

納品について

版種類

印刷製本版, 電子書籍版

書評

安心が蔑ろにされる実態

中島みゆきの「ホームにて」は、ふるさとを思う切なさを歌った名曲です。汽車に乗れば間違いなく帰れるのだという鉄道に対する信頼が、この歌の叙情を支えています。「線路はつづくよどこまでも」や「汽車ぽっぽ」といった童謡の軽快な楽しさも、鉄道がもたらす安心感があってこそのものです。 しかし、日本の鉄道、ことにJRでは、安心や安全が蔑ろにされているのではないか。ホームドアは設置されていても、駅員がホームにいることは滅多にありません。無人駅が増えて、夜遅くに鉄道を利用する女性たちから不安の声があがっています。架線や車両の故障による列車の遅延や運休もあとを絶ちません。高級リゾート列車やリニア新幹線を走らせるよりも、ラッシュ時の混雑緩和のために資金を投じるべきではないかなど、JRを日々利用している全国の人たちは様々な不満を抱えているはずです。 1987 年4月、国鉄を分割民営化してスタートしたJRは、「あなたの鉄道になります」と宣言しました。ところが、経費削減を金科玉条としたために、鉄道会社としての本業を疎かにするようになった実態を、確かなデータに基づいて立証したのが本書です。 JRの今日の惨状は、当初から予見されていました。当時大学生だった評者は、国労の組合員を招いての学習会で、JRになったら在来線は寸断されて地方交通は壊滅すると言われたのを鮮明に覚えています。 国鉄が赤字を垂れ流しているとの批判も全く根拠のないものだったし、自動車による代替のほうが費用が格段にかさむことは、本書のなかで丁寧に証明されています。 鉄道には百年を超える豊かな歴史があります。「駅ナカ」のショッピングモールが繁盛しているのも、人々が駅に親しみを感じているからでしょう。 本書は、JRの30年を検証し、公共交通機関のあり方を考えるために必読の一冊です。

【佐川光晴・小説家】 ◉『中日・東京新聞』2017年 7 月30日付

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