立場を異にしたとしても読むべきもの

◉『毎日新聞』2019年5月5日付 

(…) 新元号の祝賀ムードの陰に隠れて、「平成」末期に世間を騒がせた政治問題をなかったことにしてはならないだろう。
 著者は長年、メディアを取り巻く問題を取材するジャーナリスト。同じ版元の前著『検証アベノメディア 安倍政権のマスコミ支配』の続編となる本書では、日本の表現・報道の自由への懸念を一層示している。「アベノメディア」とは、「恫喝」と「懐柔」によってマスコミを「支配」しつつある実態を指す造語。「森友・加計問題」であらわになった政府の情報隠しや、一部メディアがあおるヘイト問題、ネガティブキャンペーンも同根にあるという。
 本書はそうした状況に抗おうとするジャーナリストや市民の言動を活写した記録。登場するのは、官房長官会見で堂々巡りの質疑を繰り返した新聞記者や、慰安婦問題に絡んでバッシングされた元新聞記者らである。氾濫する情報から「事実」を見極めるのは至難の業だが、時系列を丁寧に追った著者の冷静な筆致は、言論・思想などの立場を異にしたとしても読むべきものがある。