書籍内容
九州中継塔裁判の記録編集委員会[著]
四六判並製/304頁/2200円+税
ISBN978-4-8461-1314-8 C0036
電磁波による健康被害の問題ほど、EUを中心とするヨーロツパと日本における認識の違いの著しいものはない。2000年6月の、「携帯電話基地局の健康被害に関するザルツブルグ国際会議」は、脳腫瘍をはじめ多くの健康被害の発生の危険性を指摘したうえで、予防原則での規制を提唱した。しかしながらこの間、日本では、新世代スマートフォンをはじめとする携帯電話の普及によって、全国至る所に中継塔の設置が相次いでいる有様で、その健康被害が省みられることは稀である。日本政府は予防原則の考え方が欠如しているため、未知のリスクに対する人体実験を容認しているといえる。
本書は、九州各地において、携帯電話中継塔の撤去を求めて提起された8つの裁判の経過とその特徴並びにその到達点と今後の課題を明らかにするために、裁判を担当した弁護士らによる報告と当事者の思いをまとめたものである。(2013.06)
■内容構成
発刊にあたって─安全神話をゆるさない(弁護士 馬奈木昭雄)
蒔かれた種の実ることを祈って 荻野晃也
第一部 訴訟の契機と背景、その経緯
第一章 訴訟の契機とその背景
はじめに/ことの始まり
(1) 熊本県内で大きな反対運動が起こった
(2) 沼山津と御領、長期の反対運動のはじまり
沼山津・御領、セルラーを熊本地裁に提訴
(1) セルラーの暴力的工事はじまる
(2) 沼山津・御領、セルラーを熊本地裁に提訴
当時の九州の運動をとりまく環境
(1) 携帯電話会社/華やかな仮面の裏の正体
(2) 総務省・九州総合通信局の対応
(3) 住民に身近な自治体の対応
第二章 基地局反対運動のひろがり
広がる基地局反対運動とネットワークの結成
(1) 当時の基地局建設反対運動の状況
(2) 九州ネットワークの結成と広がり
携帯電話会社の焦りと住民の反撃
(1) ドコモから工事妨害で訴えられる
(2) 別府市春木で子どもたち頑張る
第三章 地裁段階での審理と連携
続々と基地局裁判、地裁段階の立証
(1) 基地局裁判五件が連携して
(2) 二〇〇五年春に、新たに三件の基地局裁判が
電磁波の健康影響をめぐる争点での攻防
(1) 世界的研究者ニール・チェリー博士の意見書を提出
(2) 裁判と並行して進む健康影響研究Ⅰ
(3) 役割を発揮していないWHO国際電磁界プロジェクト
(4) 日本政府の対応/「電波防護指針」をめぐって
(5) 日本の遅れた対応を助けるマスコミの役割
地裁段階の判決/基地局裁判が福岡高裁へ
(1) 前半の基地局裁判五件、ことごとく敗訴
(2) 後半二件も敗訴/荘園裁判で会社側に与しない判決
第四章 福岡高裁段階の審理とこれを支える連帯の強化
争点の新たな展開と闘う体制の強化
(1) 弁護団連絡会と裁判ニュースの発行
(2) 裁判と並行して進む健康影響研究
(3) 国内でも携帯基地局周辺で健康被害
(4) 御領地区で健康調査を実施
(5) 現実的になってきた基地局による健康被害
福岡高裁段階での立証
(1) 福岡高裁段階での立証
(2) 控訴審及び上告審はことごとく敗訴
(3) 新しい段階の基地局裁判のはじまり
第五章 九州裁判を振り返って
私たちの闘いはまだ終わっていない
(1) 基地局裁判で闘った相手とは
(2) 運動と裁判の中で見えてきたもの
(3) 「電磁波リスク」を隠している背景
(4) 命と健康、そして暮らしを守るために
裁判を支えたもの
第二部 九州中継塔訴訟/訴訟別報告
第一章 沼山津中継塔裁判について(弁護士 三藤省三)
仮処分申立までの状況
仮処分申立と審尋の経緯
(1) 本案訴訟の経緯(原審)
(2) 本案訴訟の経緯(控訴審)
おわりに
第二章 熊本市御領訴訟(弁護士 三角恒)
託麻の環境を守る会の発足と調停申立
工事着工反対行動と仮処分申立
(1) 強行工事に抗議して座り込み行動を開始
(2) 仮処分却下と工事強行
(3) 福岡高裁への抗告
熊本地裁への提訴
(1) 電磁波の危険性を論点の中心に
(2) 熊本地裁判決の問題点
福岡高裁への控訴
(1) 福岡高裁の論点
(2) 電磁波問題に関する準備書面提出
(3) 専門家三名を証人申請
(4) 奥西一夫の証人尋問
(5) 津田証言
(6) 御領控訴審報告/新たに電磁波測定を要求
(7) 住民側が健康調査結果を提出
(8) 坂部証言
(9) 結審
福岡高裁判決について
最高裁への上告手続き
熊本御領裁判を振り返って
(1) 人権侵害の視点から
(2) 広がる闘い
第三章 別府春木地区仮処分事件について(弁護士 徳田靖之)
はじめに
仮処分申請に至るまでの経過
(1) 建設目的を秘して土地を取得
(2) 工事着工
(3) 子どもたちの活動
(4) ドコモの切り崩し
仮処分の申立
(1) 予防原則
(2) 子どもたちのみが申立人の仮処分
仮処分の審理
仮処分決定とその後
第四章 久留米市三潴町の訴訟について(久留米第一法律事務所 弁護士 高峰真)
訴訟に至る経緯
(1) 突然の基地局建設計画
(2) ドコモとの話し合い
仮処分申立
本訴提起―福岡地方裁判所久留米支部
(1) 本訴提起へ
(2) 荻野先生の意見書と証人尋問
(3) 野島証人尋問
(4) 結審前の裁判官の交代
(5) 一審の不当判決
控訴審―福岡高等裁判所
(1) 控訴審での方針
(2) 電磁波の強度の計測へ
(3) ドコモの実測値の不当性
(4) 技術者の証人尋問
(5) 最終準備書面
(6) 不当判決
最高裁への上告・上告受理申立
(1) 理由書の内容
(2) 不当判決の確定
訴訟を振り返って
(1) この訴訟で得たもの
(2) 私たちに足りなかったもの
(3) これからの希望
(4) 福島第一原発事故の被害防止・被害者救済と共に
第五章 熊本市楡木基地局訴訟の記録(弁護士 原啓章)
紛争のはじまり
NTTドコモによる仮処分申立
住民による熊本地裁への提訴
福岡高裁におけるたたかい
最後に
第六章 別府荘園基地局撤去裁判について(弁護士 亀井正照)
はじめに
予防原則に関する主張の概要
(1) 予防原則に注目
(2) 予防原則の二側面
科学的証拠による立証の概要
(1) 科学的証拠の評価についての意見書
(2) 本堂証言
裁判所の見解
(1) 一審大分地裁
(2) 二審福岡高裁
終わりに
第七章 霧島訴訟の裁判報告(鹿児島県弁護士会所属 弁護士 白鳥努)
訴訟に至る経緯
(1) 事案の概要(仮処分が却下されるまで)
(2) X氏の憤り(X氏一人の闘いとなった理由)
霧島訴訟の裁判経過
(1) 本裁判の争点
(2) 第一審の経過(鹿児島地方裁判所)
(3) 判決(平成二〇年九月一七日)
(4) 控訴審の経過(福岡高等裁判所宮崎支部)
(5) 最高裁への上告受理申立(不受理)
第八章 延岡訴訟について(弁護士 亀井正照)
延岡の住民との出会い
延岡裁判で一番に訴えること
提訴時の状況
延岡裁判の一審判決について
あとがきに代えて(弁護士 徳田靖之)
資料
携帯電話基地局訴訟事件一覧
九州/中継塔裁判のあゆみ(年表)(一九九六年~二〇一〇年)
編集後記
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