書籍内容
上岡直見[著]
四六判上製/223頁/2500円+税
ISBN978-4-8461-1911-9 C0036
運転者のミスを防止し、交通事故や渋滞をなくすことができる。障害者や過疎地の移動手段として役立つ。タクシー・バス・トラックのドライバー不足を解消できる――自動運転は自動車や交通に関わる諸問題を解決できると期待が高まっている。自動車メーカーの開発も急ピッチだ。
しかし本当にそうなのか? 交通事故をなくせるのか? どこまでが可能なのか? 限界はどこなのか?
本書は自動運転の技術問題と交通問題を多角的な視点から分析、自動運転の限界と幻想を指摘する。(2019.6)
■内容構成
はしがき
第一章 自動運転の基本事項
自動運転に関する基本事項
日本の技術開発の経緯
自動運転とAI
自動運転の「レベル」
自動運転と軍事
自動運転の課題
第二章 自動運転の障壁
認識と判断の壁
ロジックの壁
人と機械の分担の壁
処理能力やデータの壁
車外とのコミュニケーション
情報の管理
道路交通法の壁
自動運転車の事故は誰の責任か
第三章 自動運転車と交通事故
自動運転車と事故
交通事故は構造的な問題
日本の運転慣習と自動運転
車と歩行者の関係
事故はスピードの問題
自動運転の社会的受容
悪質運転は防げるか
第四章 人と物の動きから考える
車クルマ「強制」社会
「停まる凶器」
人口希薄地帯のモビリティ
自動運転車の普及可能性
新しい移動サービス
バスと自動運転
タクシーと自動運転
「人が不要」という幻想
物流と自動運転
自動運転車と格差
国際的な不公平
第五章 経済とエネルギー
自動運転と自動車産業
内需と輸出
EVは「走る原発」
電源としてのEV
FCV(燃料電池車)も「走る原発」
エンジン車も「走る原発」
おわりに
付表
書評
なるほど「歩きスマホ」と似ている
「渋谷のスクランブル交差点で全員が『歩きスマホ』をしたらどうなる?」というシュミレーション演習をNTTドコモが行っている。1500 人 が 渡 ろ う と し て 衝 突 446 件、 転 倒103 件、スマホ落下 21 件などが発生し、横断に成功したのは 547 人という結果だった。何が目的かというと勿論「歩きスマホ」は危険だというキャンペーンだ。「歩きスマホ」をしている人は多いが、周りの人が注意しているから歩けているので、全員が「歩きスマホ」をしたら衝突必至だということだ。それでも残念ながら事故も起きているし、特に自転車に乗りながらのスマホは大事故にも繋がっている。
本書では、自動運転をめぐる議論は「歩きスマホ」と似ているという。自動運転への過度の期待と幻想で「自動運転車」(自動運転にもレベルがあるが)を無理に導入しても「そこのけ、そこのけ、自動運転車が通る」ということになり、通行人や自動運転でない車の運転手が注意を払わねばならないという本末顛倒になるということだ。
自動運転への期待は、交通事故の防止、渋滞の緩和、タクシー・バス・トラックのドライバー不足解消などだが、これらの問題は元々過度に自動車に依存した社会がもたらした結果だという。例えば高齢者の危険運転が指摘されているが、これは国民の大部分が運転免許保有するようになった数十年前から懸念されていたことであり、それにも関わらずこの時期から公共交通の急速な縮小が始まり、車を使わざるをえない社会が形成されたからなのだと。
本書では、自動運転の障壁、即ち今人間が行っている判断をAIが代替できるのか、法律との整合性や責任はどうなるのか、それは社会的に容認できるのか等について多角的に検討し、更にそもそも交通事故はなぜ起きるのか、事故に人間はどう関わるのかということを日本の交通状況から検証している。
また、仮に自動運転が技術的に実現したとしても現実の社会状況の中で適用できる範囲はどれ位なのか、自動車産業への影響は、資源エネルギー問題との関係はどうなるのかについても検証している。
その結果として「自動運転はまだ技術的に未成熟で、本質的に解決できない矛盾を抱えている」「AIの判断による事故は解明が困難でだれも責任を取らない」とその限界と問題点を示し、更に自動運転への期待に対しても「自動運転車の購入者は高収入層が中心であり、メリットがあるとしても国民全体に及ばない」「世界の多くの人はそもそもモータリゼーション自体と無縁である」と、日本社会と地球規模の格差からの限界も指摘している。
読後、「全ての自動車を自動運転に置き換えることが不可能である以上、混在に起因する事故や渋滞等のトラブルは解消できない」という指摘は、なるほど「歩きスマホ」と似ていると納得した。
ちなみに筆者は「歩きスマホ」はやらない。と云うより、できない.会話ですら歩きながらはできないのだから。
◉『とうきょうの自治』2019年9月30日号より。
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